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And the next day ~そして翌日~

category: 作文1  

鋼牙とカオル、ゴンザが帰って来るまでの二人は1日をどう過ごしたのか、ちょっと追ってみませんか?
「KAORU’s birthday」  
「Two thoughts」 
この2編後のおはなし、つまり続編になります。



 
     ・・・ And the next day ・・・

                          <10.19.2011>


カオルの部屋を出て、自分の部屋のドアを開けると、昨夜カオルが描いた俺の絵があった。
この絵・・・ 
できれば、カオルと俺以外には、誰の目にも触れさせたくないな。
なんとなくそう思いながら、手早く着替えを済ませ、カオルより先にキッチンに下りる。
いくら、ゴンザが下拵えしていってくれてるとはいっても、カオルが調理したら、どうなることか。
先に下りて、俺が準備しないと、食べれる物も、食べられなくなるからな。

冷蔵庫のところに貼り付けてあるメモを見て、準備を始める。
ふ~ん、サラダは、冷蔵庫の中に入ってる。
スープは2種類? 食べるのならば、好きな方を解凍、温め・・・
あとは・・・ チーズがあるのと、フレンチ・トーストを焼けばいいんだな。
なるほど、ゴンザ、ちゃんと俺が作れるものを用意してある。
これをカオルが作ったら・・・ いや、考えまい、想像するだけでも怖ろしい。

「鋼牙早いね、もう、準備してるんだ。
 ねえ、わたしにも、手伝ったり、出来る事ある?」

「そうだな・・・ フレンチトーストを焼くから、皿を出してくれ。
 あと、何か冷蔵庫から飲み物、適当に出してくれないか?
 コーヒーは、食後でいいだろう?」

「うん、いいよ。
 はい、お皿って、これでいいよね。
 え~とね、オレンジジュースと、グレープフルーツジュースがあるけど、
 鋼牙はどっちがいい?」

「俺は、オレンジジュースでいい。
 カオル、たぶん、サラダが中に入ってるはずだから、
 ドレッシングと一緒に出しといてくれ。
 どうだ・・・ あったか?」

「え~~と、サ・ラ・ダ・・・  あ、あった、これだね?
 で、オレンジジュースを、コップについで・・・
 ね、あとはフォークでいい?」

「ああ、それでいい。
 カオル、あとで、淹れてやるから、コーヒーカップを、出しといてくれ」

「は~い。
 えっと、それと、鋼牙はブラックだから、わたしのお砂糖と、ミルクね。
 O.K~ 準備できたよ、鋼牙」

「よし、こっちも焼けた・・・ ほら、食べるぞ」

「は~い。
 う~~ん いい匂い~~
 鋼牙って、ほんとになんでも出来るよね、尊敬しちゃう。
 それに比べて、わたしって・・・
 絵を描くこと以外、なんにもまともにできなくて・・・」

なんだかぶつぶつひとりごとを言いながら、席につくカオルの前に皿を置いてやる。

「カオル、人にはそれぞれ向き不向きがある。
 もちろん、俺にしか出来ない事もあれば、カオルにしか出来ない事もあるし、
 二人とも出来ることも、出来ないこともある。
 だから、もし片方しかできないことがあれば、出来る方がすればいいし、
 両方できないことがあっても、その時は二人で力を合わせてすればいい。
 そう、思わないか? 
 たまたま、カオルより、俺の方が出来ることが多いだけだ。
 だから、気にしなくていい」

「鋼牙・・・」

「まあまあ、うまく焼けたとは思うんだがな・・ 冷めないうちに、食べよう」

「うん、ありがと、鋼牙、いただきます」

「ああ」

「ん~~ 美味しい。
 鋼牙、このフレンチト-スト美味しいよ」

「そうか、よかったな」

カオルと二人、並んで朝食を食べる。
カオルがこの家に来るまでは、静まりかえったダイニングテーブルに一人座って、皿と、ナイフとフォークの触れあう音だけがする中で、朝、昼、晩、と食べていたのに・・・
それが、どうだ。
今では、食べているのか、喋っているのかよくわからない調子の、いつも笑顔のカオルが、横にいる。
最近は、昼飯に、時々とはいえ、零まで食べに来るようになって・・・ 
カオルがイタリアに行っていた間、また昔に戻ったみたいに一人になって、よくわかったんだ。
食事っていうのは一人で食べるよりも、もう一人でいい、誰かと一緒に食べる方が美味いんだってこと。

「ねえ、鋼牙」

「なんだ?」

「朝ごはん食べてる時に言うのもなんなんだけど、お昼ご飯って、どうするの?
 鋼牙が戻って来てから一緒に、で、いいのかな?」

「ああ、そうだな。
 たしか、ゴンザのメモには、ピラフを作って、昼飯用に冷凍してあるとあったが・・・
 そうか、今日は俺も近くをまわるつもりだし、
 ゴンザがいないなんて、めったにないことだから・・・
 カオル、どうだ? 待ち合わせして、たまには外で一緒に食べるか?」

「・・・え?」

「なんだ? その顔は。
 俺と外で昼飯を食べるのは、嫌か?」

「ぇえーー! い、い、嫌だなんて、絶対言わない! 言うわけないよ~ 
 鋼牙、それって、わかってて、わざと意地悪で言ってるでしょう」

「いや、あまりにもカオルが変な顔したんでな」

「え、そ~お?
 ねぇ、鋼牙、行く行く! 待ち合わせなんて、すごい嬉しい。
 デートみたい!
 でも、どこに行くの?」

「俺は、外で食べることはほとんどないからな。
 カオルの行きたいところでいいから、どこか考えておいてくれ。
 ただし、あんまりたくさん人がいるところと、
 時間がかかり過ぎるところだけは避けてくれ」

「うん、わかった、考えとくね」

「じゃあ、俺の方が一段落したらメールを送るから、
 待ち合わせの場所を折り返し連絡してくれ。
 さてと、コーヒーを淹れてくる」

「え? 鋼牙、もう食べてすんじゃったんだ」

「もう、じゃない。
 カオルが喋るばかりしてるからだろう。
 いいから、慌てずに良く噛んで食べてろ。
 コーヒー淹れてくる」

「わかった、ごめんね」

「謝るようなことじゃない。
 ごめん、じゃなくて?」

「あ、ありがと」

「よし、待ってろ」

食べた後の食器を持って、キッチンに行き、コーヒーを淹れる。
ダイニングに戻ると、コーヒーの入ったカップをカオルのマットの端に置いてやる。
俺は椅子に横向きに腰掛けカップを口に運びながら、カオルがトーストの最後の一口を口に運ぶ様子を見つめる。

「鋼牙、ありがと。
 わ、ミルクもお砂糖も、もう入れといてくれたんだ」

「ああ、出してあったので良かったんだろ?」

「うんうん。
 ん~~ いい匂い~
 あ、美味しい」

「カオル、後片付けを頼めるか?
 普段より少し時間が過ぎてるから、俺はこれ飲んだらすぐに出掛ける」

「わかった、ちゃんとやっとくね」

「皿を割るなよ、ゴンザが落ち込むからな」

「大丈夫、ゆっくりするから、心配しないで」
 
「そうか、じゃあ、行って来る」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

飲み終えたカップをテーブルに置いて、椅子から立ち上がると、箱の中からザルバを取りだし指に嵌めて、部屋を後にする。
コートを身に付けると、いつものように、出掛ける。


屋敷からの下り坂、歩いていると、ザルバが話しかけてくる。

『おい、鋼牙、カオルのプレゼントの頼みってのは?
 結局、昨日の夜は何やったんだ?』 

「昨日か・・・ 
 そうだな、絵のモデルを、やらされた。
 ・・・ザルバ・・」

『どうした』

「いや、昨夜・・・ 俺・・も、初めて知ったんだが・・
 長時間じっとしているっていうのは、案外疲れるものだな」

『な~んだ、そんなことか。
 まあ、お前の場合、素早く動いてっていうのが専門だしな。
 それにしても、絵のモデルか。
 俺はもしかしたら、もうちょっと違う話かと思って、期待してたんだが。
 そうだよな、あのカオルじゃあな』

ザルバにこのまま昨夜のことを言うべきなのか、どうか。
本当なら、このまま素直に言えばいいんだろうが。
なんだか、今はまだ、カオルと二人だけの秘密、というか、もう少しだけ黙っていたい気がする。
まあ今夜、ゴンザが帰った時に、二人一緒に言えばいいだろう。

『鋼牙?』

「あ? ああ、どうした」

『早速だが、気になるところを見つけたぜ』

「どこだ・・・」

頭を切り替え、ザルバの言った先へと意識を集中した。


コーヒーを飲み終わって、食器をキッチンに運び、洗い始める。
泡立てたスポンジでお皿の汚れを落としながら、鋼牙の言ってくれた言葉を思い出す。

「カオル、人にはそれぞれ向き不向きがある。
 もちろん、俺にしか出来ない事もあれば、カオルにしか出来ない事もあるし、
 二人とも出来ることも、出来ないこともある。
 だから、もし片方しかできないことがあれば、出来る方がすればいいし、
 両方できないことがあっても、その時は二人で力を合わせてすればいい。
 そう、思わないか? 
 たまたま、カオルより、俺の方が出来ることが多いだけだ。
 だから、気にしなくていい」

当り前のことだけど、鋼牙とわたしは、男と女、っていうこと以外に、生まれたところも、育った環境も全然違う。
ただ、わたしは女で、女なら当たり前に普通にできるはずの事が、今まで自分はちゃんとできている・・つもりだった。
でも実際、鋼牙やゴンザさんと一緒に暮らし始めて、他人から見ればほとんど何もまともに出来ない自分を、薄々気づいていたのに、わざと見ないふりをして、それでもやっぱり心のどこかでコンプレックスに感じていたんだと思う。
たぶんそんな風にわたしが思ってること、口に出して言ったことがなくても、勘のいい鋼牙にはすべて感覚でお見通しだったんだろうな。
嬉しかった。
絵を描くこと以外は、何をしても不器用なわたしなのに、それでもそばにいるだけでいいんだ・・ って。 
鋼牙はわたしのこと、そんな風に思ってくれてる、そう思ってもいいんだよね、鋼牙。

・・・ふふ

なんだか、すごくうれしくて、自然と笑った瞬間。

「あ! あ! あ――! 
 はぁ~~ セ――フ・・・
 よかった~~ 落ちて割れなくて」

危ない危ない。
あれほど鋼牙に言われたのに、もうちょっとで、ゴンザさんが大事にしてるお皿、割るところだった。
さ、きれいに濯いだら、洗濯して干して、昨日のキャンバスとかを自分の部屋に片付けなきゃ。
いつまでも鋼牙の部屋に置いとくわけにもいかないもんね。
そうだ、お昼ご飯の行き先も決めないといけないし、そのあと服も着替えなきゃ。
早くしないと、鋼牙の連絡までに終わらなくなっちゃう。

皿を洗い終わると、洗濯機をスタートさせておいて、鋼牙の部屋に行く。
扉を開けると、そこには、昨日わたしが描いた鋼牙の絵。

「傷だらけの俺の身体なんて、他人が見ても気味が悪いだけさ」 

鋼牙はいつだったか、目を伏せて、どうでもいいことのように溜息混じりに言ってたけど。
絶対・・ 絶対そんなことない。

「鋼牙ぁ・・・」

あのたくさんの傷の痛みに無言で耐えて、鋼牙は、見ず知らずの人達のために自分を擦り減らして、戦って、守っているんだよ。
たとえ、誰も鋼牙のそんな生き方を知らないとしても、わたしは知ってるし、これからも鋼牙のこと見守っててあげる。
ずっとずっと傍で見守っててあげる。
鋼牙の姿、わたしが見て、記憶して、描きとめていくからね。

キャンバスと絵の道具を、何度かに分けて自分の部屋に運び、絵には布を被せる。
これは、この絵は、鋼牙とわたしだけの絵だから。

最後にソファーを元に戻して、忘れ物が無いか、もう一度部屋の中を見渡してみる。
・・・と、ベッドで、視線が止まった。
やだ、何思い出してるのよ、わたし。
あの時・・・ 
気がついたら、あんなことになってて。
亜佐美に聞いていたとおり、現実はやっぱりすごく痛くて。
でも、身体の痛みも、だけど・・ 
あの時、突然、我にかえった時の、あの、あまりにもいきなりな状態だったことに、ただただびっくりして・・・
でも、それも・・ 目の前の鋼牙の、わたしを見る、あのせつない眼を見たら・・・

ベッドのところまで、歩いていく。
鋼牙がしたんだよね、これ。
ベッドは、まるで、ゴンザさんがベッド・メイキングしたかのようにきちんと整っている。
端に腰かけて、そのまま、ころん、と横に倒れてみると、以前、指輪を貰った時、夜中にここに置きにきた鋼牙の絵が、あの時のまま、チェストの上に立てかけてあるのが見える。

鋼牙・・・
最近思い出すまですっかり忘れていたけど、お父さんが生きていた遠い昔、幼いころ出逢ったあの初恋の人も、ずっと経って大人になって今好きになった人も、ほんと、信じられないようなすごい偶然だけど、同じ人で。
それが、鋼牙で・・ よかった。
『やっと、カオルが俺のモノになったんだな、と、思ったら、うれしくて、な』
鋼牙、あんな笑顔で言ってくれて・・・
初めての人が鋼牙で、よかった。
うれしい。
鋼牙・・  
鋼牙・・・
鋼牙のこと、好きだよ・・ 大好きだよ。
わたし、たぶん、ううん、絶対、これからも毎日毎日、もっともっと鋼牙のこと、好きになるよ。 

「こ・う・・が・・・」

絵の中の好きな人に向かって名前を呼んで、そのあともしばらく絵の中の鋼牙を見ていた、けど・・・

あ、そうだ!
連絡が入る前に洗濯もの干して、着替えて準備しとかなきゃいけないんだった。

起き上がって、階段を駆け下りる。
干して、着替えて、お昼の行き先を考えながら40分ぐらい経ったころ、メールの着信音が鳴った。

<< 終わった。 カオル、どこへ行けばいい? >>

待ってた間に考えたお店に行くため、待ち合わせの場所を返信すると、鍵を閉めて、目的の場所へと歩き始める。

今日行くお店、たぶん、鋼牙は食べたこと無いはずのモノだもんね。
うふふ、楽しみ。
食べたら、どんな顔するかな~?
ワクワクしながら、落ち合う場所へ向かう。


あれ? 鋼牙?
待ち合わせの駅に近い公園に行くと、鋼牙の座ったベンチの前に高校生ぐらいの歳の女の子が3人、囲むように立っている。
鋼牙は? って思って見てみると、眉間に皺を寄せた仏頂面で、黙って腕を組んだまま座っている。
声を掛けずにそ~っと近付いて行くと、目だけ動かしてわたしを見つけた途端、すっくと立ち上がると、低音のすごく不機嫌そうな声で・・

「どけろ・・」

そう言って、目の前の女の子を押し分けて、わたしの方に歩いてきた。
あ~ あの顔、なんだか、出逢ったころの鋼牙を思い出すな~

「鋼牙、どうしたの?」

「知らない。
 座ってカオルを待っていたら、通りかかったあの3人組に、
 ”お兄さん、カラオケでも行かない?”
 そう、声を掛けられた」

「ふ~ん、鋼牙ってば、逆ナンされてたんだ~」

『それでな、鋼牙、「行かない」 とだけ言ってだんまりで座ってたんだが・・・
 たしかに、中身はともかく、見た目、顔だけはイケてるからな。
 最近の女子高校生ってゆ~のは、なかなかにしぶといな。
 声掛けられただけでも嫌がって睨んでたのに・・・ 
 くっくっく・・・
 あいつら、絶対言っちゃいけないこと、こいつに言いやがった』

「え? 鋼牙、何を言われたの?」

「ザルバ!」

『いいじゃないか、鋼牙、カオルに教えてやれよ』

「・・・・・」

え~ 何言われたんだろう?
鋼牙、眉間に皺寄せて・・ 

『あいつらな、座ってる鋼牙に上から目線でな、
「こんなかっこいいお兄さん待たせる女なんて、その女、ロクな女じゃない」
「そんな女、ほっぽっとけばいいじゃん」
 そう言ったんだよ』

「え・・ そう・・なんだ・・・」

『待ち合わせの場所だから、動かず、ずっと待ってたんだろうが・・
 おい、鋼牙、よく我慢したな。
 お前も大人になったな~』

「なんだと、ザルバ、お前・」

「ごめんね、鋼牙、来るのが遅くなって」

「カオルは悪くないんだから、むやみに謝るな。
 悪いのは、さっきのあいつらだ」

「うん・・」

「で、昼飯の行き先は決まってるのか? どこへ行く?」

「あ、それはね、こっち。
 たぶんね、鋼牙、食べたこと無いものだと思うんだけど」

「そうか、それは楽しみだな。
 カオルお勧めの、安くて、美味くて、の店なんだろ?」

『カオルは料理ができないぶん、そういう店のことだけは詳しいもんな~』

「もう、ザルバってば・・・ 悪かったわね」

「別に美味いところなら、そんなことかまわないだろ?
 カオル、早く行こう」

「うん、そうだね」

話をしながら、目的のお店まで歩いて行く。

「鋼牙、ここだよ」

「お好み・・焼き?」

「うん、そう、そうなんだけど・・
 鋼牙って・・ お好み焼き自体、食べたこと無いんじゃない?」

「そうだな、本などで見た事はあるが、食べたことは、まだ無いな」

「ここね、普通のお好み焼きじゃあなくてね、ちょっと変わってるの」

「お好み焼きに、普通とか変わったとかがあるのか?」

「えっと・・・
 お好み焼きって最初に混ぜて焼く大阪風と、
 重ねて焼いていく広島風の、おおまかに2種類あるんだけどね、
 どっちもソースをかけて食べるのは同じなの。
 でも、ここのはね、ちょっと変わっててね、
 混ぜてから焼くっていうところは大阪風なんだけど・・」

「・・・・・」

「すっごくふわふわに焼けたのを、薬味を入れたダシと一緒に食べるんだよ。
 う~ん、明石焼き風のお好み焼きっていうのかな?
 ここのお店の呼び名は、どろ焼き、って言うんだけどね」

「明石焼きに、どろ焼き?
 どっちにしても俺にはさっぱりわからんな。
 カオル、もういい、腹が減ったから、とにかく入ろう」

「ごめんごめん、そうだよね、鋼牙、うん、中に入ろう」

店の中に入り、個室のように仕切られた席に案内される。

「鋼牙、これがメニューなんだけど・・
 えっとね、お勧めは~ これと、これと、このへんあたりかな?」

「もう、カオルに任せるから、適当に頼んでくれ」

「うん、じゃあ注文するね」

「ああ」

店員さんを呼んで、注文する。
出来あがりを待っている間、メニューをしげしげと見ている鋼牙は、なんだか珍妙な顔をしてて、可笑しいというか、可愛いというか・・・
なんでもわかっているような普段の表情とは全然違う様子がとっても新鮮・・とは、声に出しては言えない、よね。

「お待たせしました。
 ミックスと、葱豚チーズ、それと、焼き飯です!」

鉄板の上に出来あがった品が並ぶ。

「鋼牙、食べよ」

「ああ」

「この温かいダシ汁をね、お皿の中に入れて・・
 それで、薬味の葱と、かつお節も入れて・・
 で、好みで、七味を入れたりして・・
 この焼いたのを少しずつ入れながら、一緒に食べるの。
 あ、焼き飯は、小皿に取りながら食べればいいから」

「わかった」

「・・・・・ね、どお?」

「ん、ふんわりとして、美味いな。
 これは、和風な感じで優しい味だな、なかなかいい」

「でしょ? そうでしょ? 
 うふふ、良かった~~ 鋼牙が気に入ってくれて」

何気ない話をいろいろしながら、鋼牙と分け合ってお昼ご飯を食べた。


食べ終わり、店の外に出る。

「あ~ 久しぶりに食べておいしかった。
 もう、お腹いっぱい。
 鋼牙は? お腹に足りた?」

「ああ、十分だ。
 カオル、何か買い物とかあるのか? 無いならもう帰るが」

「ん~ 今日はべつに何も無いかな」

「よし、じゃあ、帰るぞ」

「うん」

向きを変えて屋敷に向かって歩き始めた鋼牙の後を追って、わたしも歩き始める。
いつものことだけど、わたしの少し斜め前を、鋼牙は普通に、でもわたしにしたらけっこう速い足取りですたすたと歩くから、わたしの目の前に見えるのは、だいたい鋼牙の白いコートの背中だけで。

「鋼・・牙・・」

ついて歩きながら、思わずつぶやくように零れたことばに、たぶん聞こえない、と思っていた鋼牙が立ち止まり、わたしのほうを振り向く。

「カオル、どうした?」

「え・・ あの、ね、鋼牙って・・ 歩くの速いから。
 だから、わたし・・
 あ、でも、鋼牙は普通に歩いてるだけで、わたしが歩くのが遅いんだよね。
 ごめん、いいの、気にしないで、大丈夫だから。
 ね、これっていつものことだから」

そう答えて歩き始めたわたしが鋼牙の横に並んだ時、左手を急に掴まれた。

「え、なに? 鋼牙」

「なんでもない・・・ ほら、帰るぞ」

そのまま黙って歩き始めた鋼牙に、結果、手を繋がれて歩く格好になって。
鋼牙、わたしのこと気遣ってくれたんだ、そう思ったらうれしくて。

「鋼牙、ありがと・・」

そう、小さい声で言ったわたしの手を、返事の代わりなのか、こちらも見ずに無言のまま、少しだけ力を入れ、鋼牙・・ 握りしめてくれた。


家に戻ったあとの午後、俺は庭で剣の鍛練を、カオルは、そんな俺をスケッチして過ごした。
夕方になって、2人でリビングで過ごしている時、ゴンザが帰ってきた。

「鋼牙様、カオル様、ただいま戻りました」

「おかえり」

「おかえりなさい、ゴンザさん、ゲートボールの試合はどうでした?」

「はい、さすがに優勝、とまではいきませんでしたが、
 かなりのいいところまで勝ち進むことができました。
 お二人のおかげでこの2日間、とても楽しゅうございました。
 私の我儘をきいて頂き、本当にありがとうございました。
 それで、カオル様も鋼牙様も、私がいない間、
 なにか御不便な事はございませんでしたでしょうか?」

「いや、別になにも・・」

「鋼牙がいたし、全然大丈夫でしたよ」

「そうですか、それはようございました。
 では、早速今夜のお夕食の準備を始めますので、私はこれで・・」

「ああ」

「ゴンザさん、わたしも何かお手伝いしましょうか?」

カオル?

「いえいえカオル様、どうぞ鋼牙様とごゆっくりなさっていてください。
 すぐに用意いたしますから」

ふっ・・ やはりそうなるだろうな・・・

「は・・い」

カオルは、上げかけた腰をもう一度下ろして座り直している。

「ゴンザさん、疲れてるから手伝おうと思ったんだけどな~」

カオル、その心掛けだけはたしかにいいんだけどな・・
ふふ・・ ゴンザもさすがに今日ばかりはこれ以上疲れたくないと思ってるんだろう。

「当の本人のゴンザがいらない、ゆっくりしろと言ってるんだからそうしてろ」

『まったくだ。
 カオルはじっとしているのが一番の手伝いだ、と俺様は思うぜ』

ザルバ、お前はなんでそこまではっきり言うんだ。

「え~ ザルバ、なにそれ~」

『俺は嘘は言わないぜ』

ま、たしかに・・・ 嘘は言ってないが・・・

「・・・ふっ・・」

「鋼牙? 今、笑ったでしょう?」

は? 俺、笑ったか?

「いや・・」

ここは黙ったままにしておいた方がよさそうだが・・・

「・・・笑った~ たしかに笑った~」

「・・・・・」

『くっくっく・・ 鋼牙、お前笑ったな・・』

おいっ! ザルバ、お前また何を・・・

「ザルバ!」

「やっぱり~ ザルバも見たんだ~ もう鋼牙、ひど~い」

ハァ―・・・ ザルバ、お前・・ 

「・・・すまん」

「鋼牙、そんな風に思ってたんだ~」

カオル、そう言うが、お前以外は皆そう思ってる、と思うぞ。

「カオル・」

バタン!

ん?・・・

「失礼いたします。
 鋼牙様、ただいまこれが・・・」

「あ~ 指令書!」

「・・・・・」

ゴンザが持ってきた指令書を見て、昨夜から浮ついていた気分が瞬時に醒めていく。
椅子から立ち上がり、ゴンザの手から司令書を受け取ると、魔導火を点け、浮き上がった魔界文字を読む。

これはかなり厄介な奴が相手のようだな・・・
今すぐ出掛けた方がよさそうだ。

「ゴンザ、すぐに出掛ける」

「畏まりました、ではお支度を」

「頼む」

「鋼牙、気をつけてね」

カオルが心配そうな顔をして俺を見あげている。

「ああ。
 カオル、たぶん今夜の帰りはかなり遅くなる。
 いや・・ もしかしたら朝になるかもしれない。
 お前、昨日はあまり寝ていないだろ?
 だから、俺のことはかまわず先に寝ていろ、いいな」

これぐらい言っておかないと、何も用のない夜はずっと起きて待っていようとするからな・・・

「うん・・ わかった」

渋々、という感じだが、返事をしたんだからたぶん先に寝てくれるだろう。

「行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」

一度、部屋のドアのところまで歩いて行き、ドアノブに手をかけて・・・

「・・鋼・・牙?」

ドアのところに立ち止まったままの俺に、心配そうな声でカオルが俺の名を呼んでいる。

カオル・・・

無言のままもう一度引き返し、立ったままカオルを見つめる。

「大丈夫だよ、鋼牙。
 わたし、ちゃんと言われた通り待たずに先に寝る、よ?」

ああ、それはもうわかってる。
俺も今すぐ出掛けなければいけない、ってことも。
なのに、この胸のもやもやはいったい・・・

「・・・・・」

「鋼牙? まだ・・何かあるの?」

「何も・・無い、無いんだが・・・」

なんなんだろう? 胸に巣くうこの感覚が自分でもよくわからないんだ。

「・・・?・・・」

小首を傾げたまま、不思議そうな顔で俺を見上げるカオル。
 
俺は・・・
カオルの前に突っ立ったままだった俺は、左手を無意識にポケットの中に・・・
その動かした左手を目で追っていたカオルの顎に右手を伸ばしながら屈みこみ、今度は急に目の前に近付いた俺に驚いて、目を見開き声にならない声を上げているらしいその口に・・・
俺は目を閉じながら唇を重ね、舌を差し込んで熱い口付けを仕掛けていた。

「んんっ ん――・・」

最初驚いて身体を強張らせていたが、舌を絡ませ、甘い蜜を味わっているうちに元に戻っていく。

カオル・・ 
今夜は、腕の中にお前を抱えて、ただ一緒に・・ 寄り添い、眠りたかった。
だが・・・

考えを絶ち切り、カオルからそっと顔を離す。

「はぁ――・・・」

目を閉じたまま熱い吐息を洩らす、どちらのだかわからない唾液に濡れた唇を、親指でなぞるようにゆっくりと拭う。

「いいか、ほんとうに待たずに先に寝てろよ、カオル」

「・・・・・」

俺のことばに、こくん・・ と、ただ頷く。

カオル・・・
よし、出掛けよう!

姿勢を正し、踵を返すと、今度こそもうあとは振り返らず、部屋を出て、ゴンザの待つ玄関へと向かった。


玄関に行くと、ゴンザがコートを持って待っていた。

「鋼牙様、お気をつけて」

「ああ。
 ゴンザ、カオルを早めに寝させてやってくれ、頼む」

「はい、畏まりました」

「行って来る」

「いってらっしゃいませ」

開けてくれたドアを通って、日の暮れかかった道を歩き始める。

”逢魔が刻” か・・ 昔の人間は上手く言ったものだ・・・

『おい、鋼牙、お前さっきは俺様にあんな真似して何をやってたんだ~』

「ノー・コメントだ」

こいつ、絶対わかってて言ってるな。

『カオルに言ってたが、お前さんも・・』

「・・・?・・・」

『昨夜は ”絵のモデル” とやらであまり寝てないんだろう?
 今夜のややこしい相手にお前・・ 大丈夫か?』

立ち止まり、左手を上げて目線を合わす。

「ザルバ・・ お前、俺を誰だと・」

『ふん、その眼なら大丈夫そうだな~
 よ~し、俺様がさっさと見つけてやるから、お前さんもさくさく片付けろよ!』

「ふっ 言われるまでもない!」

左手を元に戻すと、宵闇の中、俺は再び歩き始めた。


2012_04_28

Comments

おはようございます、一二三さん 

こらこらこら、だめですよ~! 寝てないと! 
こんなとこ、たいしたことないんだから、いつまでもうろついてちゃいけませんよ~
(*^_^*)
明石焼き、に似てますが、ここでモデルにさせてもらったお店は、こっちに来る機会があればいつでもお連れしますから、それまでお店の事を覚えてくださいね。
(歳かな? 私、最近、とみに物忘れがひどくて・・・)
なな  URL   2012-05-11 04:16  

ピンポ~ン! 正解です! りのん様 

お~ さすが、りのん様とは生息地域が隣県と近いだけあって、二人の行ったお店の名前、わかっちゃったんですね。
あのお店のあのメニュー、たしかに美味しくて、私も大好きですよ~ って・・ う~ん、食べたくなってきました。 (苦笑)
そうそう、鋼牙の経験した事が無いことって・・ 何かありますか?
もし思い浮かんだら、教えてくださいね、参考にさせていただきますので。


なな  URL   2012-05-01 02:11  

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