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カオル毛虫に刺される

2012.02.20(00:00)

屋敷近くの山にスケッチしに出掛けたカオルは、道以外のところに入り、毛虫に刺されてしまいます。
カオルの様子はどうなのか? 
鋼牙はカオルをどうするのか? 
静かにこっそり、冴島家に行ってみましょう。


   ・・・・・カオル毛虫に刺される・・・・・
                        <9.21.2011>

ん? なんだ? 玄関の方が騒がしいな・・・
今日は珍しく何も無いので、リビングのソファーに座って、本を読んでいたんだが、いったい何事だ?
なにやら、廊下を走って来る足音がする。

「こ、鋼牙様! 鋼牙様!」

「どうした、ゴンザ、何を慌ててる?」

「カオル様が!」

「カオルがどうかしたのか?」

「カオル様が今戻られて、大変な事に!
 ああ、病院に行かなければ!
 鋼牙様、私、車を表に回してきますので、カオル様に決してお触りにならぬ用にして、
 玄関で、ついていていただけますか?」

「あ? ああ・・・・」

ゴンザにしては珍しく慌てるばかりで、全く要領を得ない。
ただ、カオルに何かあったらしい、という事だけはわかるから、本をテーブルの上に置いて、玄関へ急ぎ行ってみる。

玄関には、カオルのスケッチ道具が一式入っている鞄が、床に無造作に置かれていて、カオルは眉間に皺を寄せて、何かにじっと耐えているように苦しそうな顔をして立っていた。

「おい、カオル、いったいどうしたんだ?」

「ダメ! こっち来ないで!
 わたしに触らないで!」

手を伸ばしかけた俺から後ずさりして逃げながら、悲鳴に近いような声をあげる。

「どうした? なぜ触ってはいけない?
 ゴンザもそんなことを言っていたが・・・」

「だって、山にスケッチに行ってて、わたし、つい・・・
 身体が木に触ったら、毛虫がいっぱい降ってきて。
 首の後ろの襟のところから、背中にも何匹も入ったみたいで、
 それを取るのに手でいろいろ触っちゃったんだけど・・・
 わたし、まだそのままなの。
 ゴンザさんがね、わたしに触ると、鋼牙まで痛くなっちゃうって。
 だから、どんな毛虫だか、種類もわからないままだから、
 すぐ病院に行きましょう って・・」

「カオル、お前、道以外のところに入りこんだんだな?
 あれほど言っておいたのに」

「ああ~ん、怖い顔して、今そんなこと言わないでよ。
 もう、痛くて、痛くて、チクチク、ヒリヒリして、泣きそうなんだから・・・
 お小言なら、帰ってから聞く~
 だから、今は近寄らないで、触らないで~」

「ふぅ・・ わかった。
 ゴンザがすぐに車を廻して来るだろうから、大人しく待ってろ」

「あ~~ん 痛ぁ~~い!
 でも、触っちゃダメだって言われたし~~
 あ~~ 鋼牙~~ 背中が痛いよぉ~~」

「さすがに、今回はどうもしてやれないな、カオル」

「やぁ~~ それはわたしもわかってるんだけど・・・
 何か、喋ってないとダメなの。
 ぁあ~ん 背中が痛ぁ~い・・・」

本当にかなり痛そうだ。
完全に涙目になってるが、触るわけにもいかないしな・・・
黙って、立って見守るしかできない。

「カオル様、お待たせしました。
 今、車を持って参りました。
 後ろの座席にシーツを敷いておきましたので、
 そこに、背中を付けずに、寝転んで、いただけますか?
 わたしは、カオル様の服の着替えを急いで取ってまいりますので・・・」

「・・・はい、待ってます。
 ゴンザさん、すいません、いつも迷惑ばかりかけて・・・」

「そんな、大丈夫ですよ、これぐらいのこと。
 鋼牙様、カオル様の手とかに毛虫の毛が付いているかもしれませんので、
 決して触りませんように。
 カオル様も、これ以上どこにも触らぬよう、お願いします」

「わかった、車に乗せておく。
 ゴンザ、早く着替えを取って来てくれ」

「はい、では・・・」

ゴンザは、急ぎ足で、カオルの部屋へ着替えを取りに行った。
俺は、玄関のドアを開けて、カオルを車まで連れていく。

「大丈夫か? カオル?」

「大丈夫じゃ、ない~
 ぅえ~~・・・ 痛ぁ~い・・・ すっごく痛いよ~~ 鋼牙ぁ~~」

「諦めろ。
 ゴンザと俺の言う事を無視したお前が悪いんだからな。
 どうにも、出来ない。
 病院までの我慢だ」

「痛い、痛い、痛ぁ~~い・・」

痛くて黙っていられないのもわかるが、それにしても、喚き過ぎだ。

「ほら、乗れ」

「うん・・・」

「カオル、病院に着いたら、少し口を閉じてろよ。
 見た目、何ともないのに今みたいに騒いだら、周りの人に笑われるぞ?」

「ぅえ~・・・ わかった、頑張る」

「よし、いい子だ、頑張れ」

ゴンザが来るまで、話をして、気を紛らわせてやる。
お、来たな・・・

「ゴンザが来たから、閉めるぞ。
 カオル、頑張れ、毛虫で死んだなんて、聞いたことがないからな、大丈夫だ」

「うん、頑張って行って来るね・・・」

ドアを閉めて見送る俺に、ゴンザが声を掛ける。

「鋼牙様、行ってまいります。
 あの、もし、夕方のお出掛けがあって間に合わないときは・・・」

「大丈夫だ、俺なら、適当に何か探して食べて出掛けるから。
 俺のことより、早く行ってやってくれ」

「はい、では」

俺が少々のケガをして帰って来ても、顔色ひとつ変えないゴンザも、さすがに相手がカオルだと、相当慌てているようだ。
まあ、一般人の、しかも女なんだし、それに、なによりカオルのことだから、だろう。

家の中に入り、キッチンでコーヒーを入れて、読みかけの本が置いてあるリビングに戻る。
座って、本を手に取ったものの、読んでも、あまり頭に入らない。
心なしか、いつものコーヒーのはずなのに、妙に味気ない気がする。

・・・やめた。
コーヒーを飲み終えると、カップと本を持って、書斎とキッチンにそれぞれ片付けに行き、戻って来たら、椅子に深く凭れて目を瞑る。

もう、そろそろ病院に着いただろうな。
背中、どうなったんだろう・・・?
かなり痛がっていたから、真っ赤になっているのかもしれない。
そういえば、俺もガキのころ、腕とかを、時々やられたことがあったな。
無意識に、腕をさすりながら、遠い記憶を思い浮かべる。
カオル、たぶん、今夜は痛くて眠れないぞ・・・


うん? 帰って来たか・・・
日が暮れかけたころ、玄関で車の着いた音がする。
玄関に向かうと、カオルがゴンザに連れられて、玄関に入ったところだった。

「おかえり・・ カオル、大丈夫か?」

「ただいま、鋼牙。
 あんまり大丈夫じゃ、ない」

「そのようだな・・・」

「鋼牙様、とりあえず、車を片付けて参ります。
 カオル様のこと、お願い出来ますか?」

「ああ、わかった。
 カオル、リビングに行くか?」

「うん」

見える限り、首や手に包帯を巻いている。
たぶん、背中も似たような状態なんだろう。
それにしても、ずいぶんとひどくやられたもんだ。

ドアを開けてやると、中に入って、立ったままなのを、座らせる。

「背中、背もたれに凭れられないか?」

「だめ、だって、一番痛いの、背中なんだもの」

「手や首までやられたか・・・」

「背中に入ったのを取ろうとして手で触って、その手で首のへん、触ったから。
 お医者さんに、自分で被害を拡大させましたね、って言われちゃった」

俯いて、口を尖らしながら、ぶつぶつ言っているが、実際その通りなんだから、しかたがないな。

「手、どれくらいかかるんだ?」

「手は、包帯が取れてとりあえず使えるようになるまで、2~3日ぐらい?
 首も包帯が取れるのは、手と同じくらいって言われたけど、
 でも、きれいに治るには1週間前後ぐらいかな?
 背中は・・・ ちょっと長くて、2週間ぐらいかかるかも、って言われた・・」

「ひどいな」

「うん」

「困ったな」

「ほんとだよ~」

「カオルもだが、俺も困った」

「鋼牙も? なんで?」

「背中が痛いんだろ?
 当分の間、カオルのこと、抱きしめられない」

「う・・・
 そ、そうだね。
 それって・・・」

「・・・?・・・」

「わたしも・・・」

「・・・も?」

「わたしも、困る・・・ やだぁ」

「しかたがない、一緒に我慢だな」

「ごめん・・・」

俯いたまま小さな声で謝るカオルの頭をぽんぽん、と軽く叩いて、慰める。
抱きしめてやりたいが、それも叶わないんだから、しかたがない。
ノックの音がして、ゴンザが顔を出す。

「鋼牙様、今日は  ”指令書”  は来なかったのですね?」

「そうだな」

「では、夕食の準備をいたしますので、しばらく待って頂けますか?」

「ああ。
 ゴンザ、俺がついているから、慌てなくていいからな」

「はい、わかりました。
 では、準備が出来ましたら、お呼びいたします」

そう言って、ゴンザはキッチンに消えて行った。

「カオル、喉乾かないか?
 ストローで飲めるようにして、水かジュースを持って来てやろうか?」

「うん、ジュース、なんでもいいから、飲みたい」

「ああ、待ってろ」

冷蔵庫から、オレンジジュースと、ストローを持ってくる。
カオルのすぐ横に座り、ペットボトルの蓋を開けて、ストローを差し込み、カオルの口の前に差し出してやる。

「本当に必要な時以外、なるべくなら手を使うな。
 痛いのは俺も昔やられたことがあるから、よくわかる。
 ほら、喉渇いてるんだろう? 持っててやるから、飲め」

「うん、ありがと」

ゆっくりと、何回かに分けて半分ぐらい飲む。

「もう、いいのか?」

「うん、今はね。
 ねえ、鋼牙、ティッシュか、ハンカチ持ってない?
 口、拭きたいんだけど」

「持ってないな・・・」

ジュースを机の上に置いて、両手でカオルの頬を挟むと、唇をゆっくりと舐めとってやる。
舐めとった後、目を閉じかけているカオルに、吐息が感じられる距離のまま、そっと、問いかける。

「このまま、キスしても、いいか?」

「・・・ん・・・」

一瞬、淡く微笑んで、そのまま目を閉じる。

唇を重ね、深く合わせて忍び込んだカオルの口の中は、オレンジの味がした。
背中や首に手を廻せないから、頬を挟んだ手で、優しく、でも、しっかりと支えて、カオルの口の中を愛撫する。
ゆっくりと、歯列をなぞり、彷徨い出てきたカオルの舌をつついて、絡ませ、吸い上げる。
んんーーー・・・
先の方を甘噛みすると、鼻にかかった甘い声をあげる。
息次の時、向きを変えながら、唇をなぞり、食み合って、一息ついたところをもう一度深く舌を差し込み、口蓋の奥の方をじんわりと刺激する。
んふぅ~~・・・  んーーー・・・
力が抜けかけているのを感じて、もう一度唇を舐めとり、ゆっくりと、顔を離す。

「カオル、背中痛いんだろう? 後ろに倒れるなよ。
 手で支えてやれないからな」

「うん・・・ ごめん。
 痛み止めっていうか、痒み止めっていうか、飲み薬飲んで、塗り薬塗ってもらってるんだけど。
 でも、背中全体が、針でチクチク刺すように痛いな~ やっぱり」

ゴンザが呼びに来るまで、話をしながら待つ。
手も使えないし、後ろに凭れても座れない。
可哀相だが、今の俺に出来るのは、話の相手をして、少しでも気を紛らすことだけだ。

「ずいぶんお待たせしました。
 お夕食の準備が出来ましたので、どうぞ、いらしてください」

「ああ、カオル、ほら、行くぞ」

「は~い」

ダイニングに入ると、椅子をひいて座らせ、それから自分の席につく。

「カオル様が食べやすいように、炊き込みご飯にしたんですが、どうしましょうか?
 私が食べさせて差し上げましょうか?」

「いや、いい、俺が食べさせるから、先にカオルの分だけ持ってきてくれ」

「はい、では、すぐにお持ちいたします」

「鋼牙、ごめんね」

「気にするな、今夜は仕事も何も無い。
 ゆっくり食べさせてやるから。
 だから、もう、いちいち謝るなよ、いいな」

「うん」

運んで来たのを、スプーンと箸を使って、食べさせる。
炊き込みご飯に、茶碗蒸し、漬物に、白身魚の焼き物、菜っ葉のおひたし。
どれが食べたいのか聞きながら、食べさせる。
ゴンザは気を使ったのか、キッチンの方へ消えている。

「次は?」

「んーー・・ 茶碗蒸し食べたら、もういい、お腹一杯」

「ほら」

「・・・・・」

「水、飲むか?」

口を動かしながら、頷いているから、飲み込むのを待って、コップを口に持っていき、ゆっくりと傾けてやる。
こくっ・・・ こくっ・・・ こくっ・・・  はぁーー・・・
全部飲んで、コップを離すと、大きく息を吐いている。

「もう、いいのか?」

「ん、ご馳走さま。
 先に食べさせてくれて、ありがとね。
 鋼牙だってお腹空いてるのに」

「ああ、気にするな、俺もこれから食べるから。
 カオルは? そこに座っているか? 話なら、食べながらでも出来るからな」

「うん、そうする、鋼牙の食べるところ、じっくり、見てよう~」

よくわからんが、俺の食べるところなんか見て、楽しいのか?
ゴンザに、持ってきてくれるよう、キッチンに言いに行くと、すぐに持ってきて、カオルの分を片付けてくれる。
横で、俺の食べるところを黙ったまま、にこにこしながら、ただ、じーっと見ている。

「おい、そんなに見られると、さすがに食べにくいんだがな、カオル」

「え、そう? 気にしないで食べて。 
 わたし、鋼牙を見てるだけで楽しいし、嬉しいんだよ?
 ご飯食べてるところなんて、今までじっくり見たことないし、すごく新鮮。
 手がこんなじゃ無かったら、スケッチしたいぐらいだよ」

「そんなもんか?   とは言ってもな」

「いつも通り、俺には関係ない! みたいな顔して食べて。 
 ほら~」

なんだか、動物園の動物になったみたいな気分だ。
カオルの視線に耐えながら、話しに相槌を打ちつつ、どうにか食べ終える。
ゴンザは食後のコーヒーを俺にだけ持ってきて、トレイに載せているもう一つのモノをカオルに前に置き、コップに水を注ぐと、片付けに戻って行った。

「うぇ~~~・・・」

隣で嫌そうな顔をするカオルを見て、なるほど、薬なんだな、と見当をつける。

「なんだ、嫌なのか?」

「だって、病院で帰る前に飲まされたんだけど、メチャクチャ苦いんだよ~
 しかもわたしの苦手な粉薬だし。
 背中の痛み止めだから、頑張って飲むけど、でも・・・ やだなぁ~~」

「”良薬口に苦し” って言うだろう?
 ゴンザが粉薬をオブラートに包んでくれてるから、大丈夫だろ。
 入れたら、すぐにコップを傾けるぞ、いいな?」

「うん、鋼牙、上手に飲ましてね」

「努力する。 ほら、口開けろ」

開けた口の舌の上に薬の入った、オブラートを載せてすぐに、コップを当て、傾ける。
しばらく目をシロクロさせて、なんとか飲み込んだようだが・・・

「やぁぁぁぁーーー 鋼牙、水、水、破れて、苦い~」

涙目になって、手をばたばたしてさせて騒いでいると、少なくなった水をコップからでは飲ませにくい。
ええい!
コップに残っていた水を口に含んで、カオルの頬を挟んで上向きにさせ、口移しで水を流し込む。
こくり・・ と飲み込んだが、顔が歪んだままで、口の中にまだ薬が残っているのがわかる。
すぐに水差しから、コップに水を注ぎ、急いでもう一度、口移しに飲ませる。
やっと、眉間の皺が取れてきた、か? 
もういいか・・・

「鋼牙、もう一口、水をコップで飲ませ・」

面倒臭い、コップを手に取ると水を含んで、飲ませてやり、そのまま訊いてみる。

「まだいるか? カオル」

「ううん、もういい、やっと苦いの、消えたから・・・んん・・・」

唇を指で拭ってから、離してやる。

「次からは、薬の時だけはコップを両手で挟んででも持って、自分で飲め。
 薬は、俺が放りこんでやるから」

「そうする。
 この薬、背中の痛みが消えるまで飲まなきゃいけないんだって。
 もう、やだ、先が長すぎるよ~」

「そんなことより、風呂はどうするんだ?」

「お風呂は・・・ 入りたいけど、手も首も背中も、これだもん。
 小さい帽子被ってたんだけど、毛虫がいっぱい降ってきたこと考えたら、
 できれば髪と顔だけでいいから洗いたいなぁ。
 でも、しかたないか。
 髪は、今夜我慢して明日美容院に行って洗ってもらうしかないよね」

困った顔して、俯いてひとり言のように呟いているのを見ていると・・・

「カオル、髪と顔は俺が洗ってやろうか?」

「・・・え?」

びっくりしたように顔をあげて、俺の顔を見る。

「ついでに身体も。 
 と言っても、まあ、足ぐらいだろうが。
 俺で良ければシャワーで流すか、タオルで拭いてやる。
 どうだ?
 手が使えるようになるまでの、2~3日。
 ずっと、そのままっていうのも嫌だろう?」

「嫌・・・だけど」

「俺だと、恥ずかしいか? それなら、ゴンザに頼んでやるが」

「ううん、いい」

「・・?・・」

「鋼牙がいい。
 ねえ、洗ったり拭いてもらったりしてもいいの?
 明日になったら、朝と夜に薬も塗ってもらわないといけないんだよ?
 それもしてくれる?」

「お前さえ、俺で良ければな」

「背中もだよ? 2週間毎日だよ?」

「塗ってやる。
 どうせ、自分じゃ無理だろ?」

「うん、無理。  絶対無理」

「・・・ふっ  カオル、身体固いもんな」

「鋼牙、それ、余分!」

「でも、事実だろ?」

「もう、なんでそんなこと言うかなぁ~
 今、すっごく嬉しかったのに」

顔を見合わせて、笑い合う。

カップを口に運ぶ、が・・・ ぬるいな。
カオルが薬をちゃんと飲めないから、せっかくのコーヒーが冷めてしまったな。
一息に飲み干してソファーに凭れる。
隣では、カオルが包帯の巻かれた自分の手をしげしげと眺めている。
あの手、まるでミイラみたいだ、なんて、言ったりしようものなら、すごく怒るだろうな。

カップとコップを持って、キッチンに行き、ついでに、この後の事をゴンザと相談する。
俺が髪や顔を洗って、薬も塗ってやることにしたから、と言うと、最初すごく驚いていたが、なぜだか嬉しそうに笑っていた。
そんなに俺がカオルの世話をする事がおかしいんだろうか?
よくわからないな。

着替えやすい服なんかの準備はゴンザに任せて、さっそくカオルをきれいにしてやるとするか。

「カオル、風呂場へ行くぞ」

「う、うん」

Tシャツにふわっとしたジャンパースカートを着ているから、足を洗うのは比較的簡単だ。
裾を思いきってかなり上の方まで持ちあげさせて、スポンジにボディシャンプーを付けて擦り、シャワーと手で洗い流してやる。
その後、タオルでざっと拭いて、あっという間に終わった。
今度はそのタオルを桶に溜めた、熱いお湯に浸す。

「カオル、さっぱりさせてやるから、向こう向け」

「え?」

「俺を信じて、向こう向け」

「う、うん・・」

「いいか、服をゆっくり脱がすぞ?」

「え、ぇえ~ ちょ、ちょ、ちょっと待って、鋼牙てば、え~~!」

ジャンパースカートとTシャツを一緒に下からたくし上げると、胸のあたりで曲げた肘に引っ掛かって止まる。

「カオル?」

「鋼牙ぁ・・」

泣きそうな声で、俺の名前を呼んでじっとしている。

「カオル、決していやらしい気持ちでやってるんじゃあない。
 ただ、きれいにしてやりたいだけだ」

「わかってる。
 わかってるけど・・・」

「じゃあ、手をあげろ。  
 俺を信じろ、カオル。
  
 それに、お前の上半身なら、俺はもう、よく知ってる」

「も、ばかぁ・・」

「ばかでもなんでもいいから、ほら、カオル」

耳の当たりを真っ赤にしながら、両手をゆっくり上に伸ばす。
俺は、特に背中に気をつけながら、ゆっくりと服を持ち上げて、最後に両腕からそっと抜き取る。
華奢な背中は、一面に薬を塗られて、油紙のようなものを当てた上にガーゼを当て、テープを使って留めてあった。
首の下のあたりを、掻き毟ったんだろう・・・ 爪でひっかいた後が幾筋も幾筋もいろんな方向に無数に赤く走ってついていた。
ひどいな・・・

「鋼牙ぁ・・・」

「ふぅ・・ 見るからに痛そうだな、カオル。
 よし、そのままでもいいし、恥ずかしいなら腕で胸だけ隠してこっち向けるか?」

「・・・うん」

屈んでタオルを絞っていると、カオルがこっちに向きを変えたのが目の端に見える足元でわかる。
俺が立ち上がると、腕で胸を隠して、真っ赤になった顔を横に向けて立っていた。
さっきは、よく知ってる、なんて言ったが、あの時は薄暗い室内でぼんやりと見えただけだ。

キレイだ・・・

こんな明るいところで、恥ずかしさにうっすらと赤く染まった滑らかな肌を見ていると、俺の意志に関係なく身体が反応してしまいそうになる。
本能に抗えない男っていうのは、嫌な生き物だな・・・
そう思いながら、奥歯を噛みしめて、身体の奥底から湧きあがって来る欲望を意志の力で無理やり押さえつける。

普段の無表情を装い、カオルの身体を肌の出ている鎖骨の辺りから、下に向かって、拭き清めていく。
一度、湯を換えて濯ぎ、絞り直し、立ち上がる。
横を向いている顔をこちらに向かせて、顔を寄せながら、カオルに囁きかける。

「見ないから、胸を拭いている間だけ、手を下げてろ」

優しく口づけながら、タオルで、胸とその下のお腹のあたりを拭く。

「終わった・・・」

耳にキスしながら囁いた俺の声に、慌てて胸を隠して、向こうを向いてしまう。
浴室のドアを開け、バスタオルを取って、向こうむきのまま、きつくない程度に身体に巻きつけてやる。

「カオル、そのまま、洗面台のほうに来い。
 顔と髪を洗ってやるから」

幸い、洗面台は、ここに移り住む時、ゴンザが新しいのに換えているから、髪を洗えるようになっている。
先に顔を洗ってやり、今度は髪を洗って、ドライヤーで乾かしてやる。

「首のあたりは濡れなかったか?」

「うん、大丈夫、濡れてないよ」

「服と下着の着替えはゴンザが用意してくれてるはずだ。
 どうだ、自分で着られるか?」

「うん、着れると思う」

「じゃあ、俺はダイニングにいるからな」

「鋼牙、ありがと」

「ああ」

ドアノブを握らなくてもいいように、完全に閉めずに、ドアを閉じておくと、ダイニングに行って、自分の椅子に座る。

「カオル様、終わられましたか?」

「ああ、終わった。
 ゴンザ、カオルがこっちに来たら、何か飲ませてやってくれ。
 俺は入れ換わりに風呂に入って来る」

「はい、畏まりました。
 鋼牙様、お疲れさまでした」

「ああ、本当に疲れた」

くすくす笑うゴンザは、カオルに出す飲み物の用意を始めて、俺はテーブルに突っ伏してカオルがやって来るのを待つ。

「鋼牙~ ありがと~ さっぱりした~~」

片肘ついて、明るい声で開けたままの入り口から入って来るカオルを眺めていると、顔が綻ぶ。

「よかったな。
 俺も風呂に入って来るから、ゴンザに何か飲ませてもらえ」

立ち上がって、浴室に向かう。
身体を洗い、湯船に浸かって、身体を伸ばす。
目を閉じると、さっき見たカオルの姿がくっきりと頭の中に浮かぶ。
ほんとに、綺麗だったな・・・

自分の胸や腕を眺めて不思議な気がした。
同じ人間なのに、男と女っていう違いだけで、どうしてあんなに綺麗なんだろう?

そしてたぶん、男と女は、お互いに自分に無いものに憧れ、魅かれあうんだろうな。
人間って、不思議だ・・・

湯船から、身体を引きあげ、火照った身体の熱を、冷たいシャワーを浴びて十分に冷ましてから、浴室を出る。
身体を拭いて、着替えると、カオルがまだいるはずのダイニングに行く。

「あ、出てきた。
 鋼牙もさっぱりした?」

「ああ、さっぱりした」

「じゃあ、鋼牙も何か飲んだら、歯磨きして、後はもう、寝るだけだね?」

「そうだが、俺は風呂上がりは水を飲むから、もう歯磨きは済ませてきたぞ」

「ぇえ~」

「心配するな、歯磨きもちゃんとしてやるから」

「ほんと? うふ、ありがと」

水のボトルを出してくれたゴンザがまた笑っている。
何がおかしいんだか。
俺は必要な事をやっているだけなんだがな。

洗面台の前で、カオルの横から、カオルと鏡を見ながら、歯ブラシを持って、歯磨きをしてやってるんだが・・・
カオルは、歯ブラシを動かしている間中、正面の鏡に向かって、口を開けたまま、 ”変顔” をしている。

「カオル・・・ お前何やってるんだ?」

手を動かしながら、溜息を吐いて問いかける俺に、言葉にならない返事が返って来る。

「ほぅぐが ぐがぐごごぐごぐげ がぎがご」

「もういい、何か言いたいなら、後で聞く。
 何言ってるのかさっぱりわからん。
 さすがに俺でも理解不能だ」

「ごげぇ」

コップに水を入れて、うがいをさせて、やっと終わりだ。
歯ブラシを洗って片付けていると、背伸びしたカオルが横から俺の頬に音を立ててキスをする。

「カオル?」

「お礼、今日のお礼。
 今はこれぐらいしかできないけどね」

「お礼か・・・ お礼なら・・・ 今夜、一緒に寝てくれるか?
 横で寝てるだけでいい。
 そんなじゃ、どうせ何も出来ないしな。
 ただ、寝るだけならいいだろう?」

「それは、わたしも、鋼牙の傍にいられるのは嬉しいけど。
 でも、いいの?」

「いいんだ。
 カオル、上に上がるか?」

「うん」

階段を上がり、カオルの部屋で枕を持ってから、俺の部屋へ行く。
俺は先にベッドに入って、寝転んでいるが、カオルは、ベッドの上に座ったままで、話をしている。

「どうした? 寝ないのか?」

「う・・・ん。 
 だって、どうやって、寝転ぼうかな、って考えちゃって・・・
 背中痛いから仰向けに寝れないし、でも、うつ伏せもね。
 で、どうしようかな、って思って」

本当に困ってるみたいだな・・・

「とりあえず、俺の言う通りに試してみるか?」

「え? うん、やってみる」

いつもなら、腕枕するあたりにカオルの枕を縦に置いて、その上をポンポンと手で叩く。

「カオル、ここに顔を横向きに伏せて、上半身を俺に半分乗せるようにしてうつ伏せてみろ」

「う・・・ん、こ~お?」

「そうだ、手は、こっちは首に廻しておけ、そっちは好きなようにしろ。
 どうだ? 痛いか?」

「ううん、首も背中も痛くないし、楽だよ。
 でも・・・」

「ん? なんだ」

「鋼牙、ずっと、わたしが半分のっかったままで、重たくない?」

「なんともないさ。
 俺は、先に寝るからな。
 カオルも早く寝ろよ、おやすみ」

カオルの髪にキスをして目を閉じる。
と、俺の唇に柔らかいカオルの唇が小さい音を立てて触れて、離れて行くのを感じる。

「お礼だって、無理に誘って、ほんとはわたしが寝やすいように考えててくれたんだね。
 鋼牙、ありがと」

「いいから、もう寝ろ」

「うん、おやすみ」

お互いの人肌のぬくもりに包まれて、どちらが先だったかなんて、わからない。
優しい夢の中へと・・・ 落ちて行った。





コメント
こんばんは、虫なら蜘蛛以外はほとんど平気な管理人です。
毛虫の描写が生々しい・・とは、そう思ってもらえるなら、たぶんそこの部分はカキコ成功、なんでしょうね。 (*^^)v
そして・・・ 二人の日常が~ と褒めてもらえることがすごくうれしいです。
ありがとうございます。
【2013/08/09 23:28】 | なな #- | [edit]
カオルが羨ましい! とよく言われますが・・・
ほんとにね、私もそう思います。 (苦笑)
一家に一人、鋼牙くん! 是非欲しいですね。
今回は、山で良く遊んだ小さい頃の経験をちょっとだけ利用しました。
虫とかの話なら、えんえんと語れます。
毛虫なら、どんな色のがいて、大きさはこんなので、毛足の長さと要注意度の関係などなど・・・
まあ、辞めておきますが。
近況をまた近いうちにメールしますね。
コメ、ありがとうでした。
【2012/03/01 00:45】 | なな #- | [edit]
やはりそう思われてしまいますか。
まあ、頭の中ではそんな感じなので、あながち否定できませんが・・・ (苦笑)
ほんとね、こんなステキな人、周りに1人、欲しいですねぇ。
【2012/02/25 16:30】 | なな #- | [edit]
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